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◆ 健三さん奮戦記 ① ◆

迎春



これより「健三さん奮戦記」
カジさんとはまた別の情報をお届けしていきましょう。



☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆


健三さん(64歳)は、静岡県で長年、
車の板金塗装を仕事にしてきました。

作業の過程で、シンナーを含む塗料を車体に吹き付けます。
どんなに注意しても、微粒子の漂う外気を吸ってしまいます。

物事に頓着しない性格の健三さんは、
マスクをつけず作業することも、ままありました。

板金塗装の同業者がシンナーに蝕まれ、がんで死んでいく。
その事例を見ながら、
――「自分も危ない」――
と感じていましたが、病院嫌いもあってがん検診を受けることもなく、
好きな酒・タバコを毎日楽しんでいました。


3年前から年に何回か熱発するようになって。
身体がだるく、目の白目部分が黄色くなり、食欲が落ちました。

50キロあった体重が47キロに減少。
1日数回の下痢便
が始まりました。
2010年(平成22年)のことです。

この年の7月、町内のがん検診を受けたところ、
X線写真で引っかかりました。

肺の一部に濁りが発見されたのです。


静岡県には全国でもハイレベルで知られる大病院があります。
S病院です。
健三さんはそこで改めて肺の検査を受けました。

右葉、左葉合わせ、蛍の飛んでいるような白い斑点が10ヵ所。
担当医は「がん細胞がどこからか転移してきた」と判断しました。


8月。週1度の総合検査を受けたところ、
PET検査で原発(がんの元となる臓器)部位が発見されました。

がん細胞は甘党です。
ブドウ糖を特殊な薬剤とともに血液に入れると、がん細胞に集まる。
それを追跡すると、原発部位がわかるのです。


9月2日。
担当医は、健三さんと妻の共子さんを呼び、検査結果を告げました。

「残念ですが……末期の肝がん。
 放置すれば余命3ヶ月です。
 今までどうなさっていたのですか?」


3年半前あたりに、肝臓に生まれたがん細胞が増殖を続け、
今や肝硬変を引き起こしている。
肝臓の右側はほぼ占拠されているというのです。

「肝門脈右枝の内部、
 このあたりに腫瘍塞栓が生まれています。」


医師の持つペンがすばやく動き、紙の上に肝臓図が描かれていきます。


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◆ 健三さん奮戦記 ② ◆

「健三さん奮戦記」 続きです。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆


動転する夫妻を前に、若い担当医は、即入院の必要と入院後の対症療法として
「肝門部放射線治療」と「リバーザー動注」を告げました。

放射線治療と抗がん剤の動脈への注入です。

「抗がん剤というのは、薬であると同時に、毒でもあるのです。」
若いドクターはていねいに療法について説明しました。


注入すれば、確実に肝臓がんを抑制する効果がある。
しかし、問題は他の臓器 ――

脾臓、腎臓などに抗がん剤の影響がおよび、副作用が発生する。
脱力感、嘔吐、体重減少、ひっきりなしの疼痛など、副作用との闘いはきつい。

「また……この抗がん剤は、肺に転移したがん細胞には効かないのです。」

ドクターは冷静な口調で、恐ろしい真実を告げました。

「こうした抗がん剤を用いてがん細胞を叩いても、
 延命は年内いっぱいだと思われます。」


打ちのめされて病院をあとにした健三・共子夫妻に
その夜、親戚の1人から連絡が入りました。

「浜松市内の知人に、ふしぎな医療器具を開発した男がいる。
 切らず、薬ナシ、放射線ナシで難病の症状が改善される、と男は言っている。
 どんなものかは分からないが、訪ねてみればどうか。」


教えられた浜松市内東三方の「A社」に車で駆けつけてみると、
駐車場に等身大の、牛とブタの部位をつなぎ合わせた
金属製の看板がぶら下がっていました。

共子さんは思いました。

「これは……
 獣医さんじゃないの。
 あぁ、おとうさんはダメかもしれない。」


獣医は獣の治療が専門。
末期の肝がんから、夫を救い出せるはずがない。


社内で応対した男は70代はじめ。
黒めがねを掛けていました。

彼は「医学博士 松浦 優之」と名乗りました。
夫妻の話に耳を傾け、事態の深刻さを十分察知したようすでした。

話を聞き終わり、ややの沈黙あって
「ボクが症状を変えてあげるから、一緒にがんばりましょう。」
響きのある大きな声でした。

それがたんなる気休めなのか、
それとも心底からの確信あってのものか、
夫妻には聞き分けがつきませんでした。


松浦は、みずから改良工夫したという器具を見せ、使用方法を説明しました。
首筋の真上と腰ベルトあたりの中央に、専用のパットを貼り付ける。
器具のスイッチを入れ、刺激の強度と時間を自分で調節するのだと。


言われるとおりその場で約2時間。
「AWG」原理で動くという器具を使ってみて、健三さんはふしぎな感覚に陥りました。

身体の深奥部から細胞のつぶつぶを直に撫でられるような、
骨髄や血管を通し、ある種の粒子が振動する波となって侵入してくるような……。



☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ( … 続く ) ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



◆ 健三さん奮戦記 ③ ◆

「健三さん奮戦記」 続きです。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆


身体の深奥に存在する粒子を、マッサージされるような感覚。
使用中、健三さんは何度も眠りに誘われました。

パットを外したあと、何とも懐かしいような感覚が残った、と
この時の健三さんの感想です。


「腹が減ったな。」

夫の口をついて出た言葉に、共子さんは信じられない表情になりました。
ここ数日、極端な食欲不振で水も喉を通らない状況でした。
やせ細った夫がいま、食欲を訴えている……。

帰り道によったファミレスで、注文したラーメンを啜りながら
健三さんは言いました。

「放射線治療や抗がん剤を使っても、余命3ヶ月だ……
 どうせ死ぬなら、自宅で楽な治療方法がいい。」

丼をキレイに空けた夫を見て、共子さんは思いました。
この人がいいと思う治療で死なせてあげたい……。


それにしても、夫妻にとって松浦医学博士の「AWG」原理の説明は、
ちんぷんかんぷんでした。

―― これは、発生させたマイナスイオンの粒子を、
超低周波に乗せて体内に浴びせる装置だ。

人の細胞の最小単位である原子核と電子に
共鳴振動を起こさせ、
そのパワーでウィルスの殻を破り、殺滅するのだ……。 ――


結局のところ、肝臓がんはウィルス性疾患である。
松浦の説明は夫妻にとり、ひどく新鮮でした。

書き写してくれた通電コード表には、器具を用いた場合の
疾病部位ごとの振動波コード多数がありました。

 ① 酸性体質
 ② ウィルス性疾患
 ③ がん性疾患

記されたコードは9種類。
照射時間合計396分。
ほぼ6時間半です。

夫妻は難解な暗号を見るような気分で、そのコード番号表を見ていました。


それから数日後、器具を導入した9月5日からの毎日を、
共子さんは市販ノートを使った「AWG日記」に、入念に記録しています。

「 9月5日
  9/2 病院で 47.2kg 午前10時測定体重
  9/3から禁酒禁煙
  午後 ①②③④ 午後3時から開始」

「 9月6日
  午前 ①②
  午後 ③④⑤⑥
  夜 ⑦⑧⑨
  脚のだるさが楽になってきた
  食欲あり
  体重 47.2kg 」

「 9月7日
  午前 ①②③④
  午後 ⑤⑥⑦
  夕方 ②③④
  食欲あり
  だるさなし
  巨峰1房(1パック)
  くだものをよく食べるようになった 」

「 9月8日
  午前 ①②③④⑤⑦
  午後 ②③④
  夕方 ⑥⑧⑨
  食欲あり
  だるさなし
  貼り付けた部分がかゆい
  桃1個
  体重 47.1kg 」

「 9月9日
  午前 ①②③④⑤
  午後 ⑥⑦⑧
  夜 ②③④
  食欲あり
  だるさなし
  貼り付けた部分がかゆい
  巨峰1房(1パック)
  今田、岩瀬、杉森 お見舞い 」

「 9月10日
  午前 ①②③④⑤⑥
  午後 ②③④
  夜 ⑦⑧
  メロン半分
  牛乳
  バナナジュース
  あごの髭が黒い
  毛が増えてきた
  今日初めての便が夜9時過ぎで、やや柔らかだった
  1日数回の下痢便がなくなった
  ⑨123分がこなせない
  夜になると疲れてしまう 」

夫の毛髪に現れた小さな変化。
妻の目はそれを見逃しませんでした。




☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ( … 続く ) ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



◆ 健三さん奮戦記 ④ ◆

「健三さん奮戦記」 続きです。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆


共子さんの「AWG日記」は続きます。

「 9月12日
  午前①②③④⑤
  午後⑥⑧②③④
  夜⑨ … 40分
  
  朝、柔らかだったが形のある便
  
  食欲あり
  お雑煮4個
  牛乳バナナジュース
  くだもの

  昨日くらいから肝臓部分に違和感あり
  引きつるようなおおぼったい感じ
  身体を伸ばすとちくっと感じる
  
→ 13日に松浦先生に確認
    ストレスのせい
    週に1日は何もしない日=休養日を取るとよい
    ビタミン剤QPゴールドを勧められた
    アリナミンEX 」


「 9月13日
  午前①⑤⑥⑦⑧
  午後⑨

  腕のシワがなくなってきた

  牛乳
  バナナジュース
  食欲あり
  便も良好
  ②③④は、今日は休み

  パットを貼り付けた部分がかゆく湿疹が出ている 」


「 9月15日
  午前①②③④⑤⑥
  午後⑦⑧
  夜⑨

  下痢便はなくなったが、硬めの便になった
  小便の回数が多い
  パットを貼ったあとがかゆくて湿疹が出ている

  牛乳
  バナナジュース
  巨峰 」


……… 9月17日。
ここまで病状、身体部位の変化、地震の介護を丹念に綴ってきた「AWG日記」が
一転、共子さんの怒りと嘆きに変わりました。

「 9月17日
  『AWG』電子照射開始から13日目、
  本人が毎日隠れて喫煙していたことが発覚!

  この治療は本人自身にかかることで、
  禁止されている喫煙を隠れてやることが、どんなことなのか、
  本人の甘さになんともあきれ果てている――。
  
  今後の治療に関しては、本人の意志に任せることにした。

  原点に戻れば、余命1ヶ月と宣告された命を『AWG』にかけて、
  健康を取り戻そうと望んだことで、
  仕事も休業中なのに大きなお金が出て行く現状を、
  本人はどう考えているのか。

  私には理解できない。
  この先、本人が長く生きるも、短く縮めるも、
  本人自身の問題であると思うから。

  私は本日より、
 この治療にうるさく世話を焼くのは
 やめることにする!! 」






☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ( … 続く ) ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



◆ 健三さん奮戦記 ⑤ ◆

「健三さん奮戦記」 続きです。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆


末期肝がんで余命3ヶ月を宣告された夫・健三さんが、
女房に隠れてタバコを吸っていた!

面倒見きれないよ、もう。どうぞご勝手に。
一途に看護してきた妻・共子の、痛烈な三行半にも似た「AWG日記」の筆調です。

それにしても、健三はどうやってタバコ代金を捻出したのか。
禁酒禁煙の誓いとともに、夫の身辺には財布はなかったはずです。

問い詰める共子に、健三はしぶしぶ答えます。

「家にある……
車の廃部品を廃品業者に持ち込み、現金に換えた。」のだと。

家業は車のボディショップ。廃部品はそこら中にあります。


「それほどまでに体力が回復していたのか。」の感想。
「それほどまでして。タバコが吸いたいのか。」の想い。

共子には夫の心が理解できませんでした。

余命わずかだから、吸えるうちに吸っておこうというのか。
考えの甘さからではなく、絶望から逃れたいために吸うのか。

病状好転の兆しありという大事な局面で、
克己より快楽を優先させるのか?
男は皆そうなのか?

考えるほど分からなくなり、腹の底がグツグツ煮えてくる。
共子はあれこれのことを考え、一晩中眠れませんでした。




☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ( … 続く ) ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



プロフィール

俊成 正樹

Author:俊成 正樹
1936年生まれ。大阪市出身。
中央官庁(現・国土交通省)勤務を経て、社会派ジャーナリストとして独立。松本清張、森村誠一など有名作家との共同作業に参画、取材・調査に活躍。
1981年より「水」問題に取り組み、元日本陸軍の保有していた防疫給水技術調査のためアメリカ、イギリス、中国、ロシアなど各国を取材。各地の水資源問題に精通。
著書に『日本から水がなくなる日』(2009年)、『学校では教えない商売・お金・運開き』(2009年)、『水道管の叫び』(共著、2010年、以上中経出版刊)ほか多数。

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